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2018.12.11

誰かのためが、自分のためになる[前編]ぶっとびアート / 笹田夕美子さん・村松弘美さん

今、浜松で起きている面白いこと。
まだ、小さなムーブメントかもしれないけれど、
なぜか惹きつけられてしまう不思議な魅力がある。
その秘密を探ってみると、「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。

 

〜寝るのも忘れ、夢中になって遊んだのはいつですか〜

 

 

「それって何のためにしているの?」という質問に対して、「ただ好きだから」という答えではなかなか通用せず、仕事にしても、遊びにしても、目的や理由を求めてしまうのは大人の頭が固いからかもしれません。子どもと、大人の遊び心をくすぐり、本気で遊んでみる場を目指し、障がいの有無、年代に関わらず、面白好きなさまざまな人とワークショップを行う「ぶっとびアート」を、2005年から月1回、企画・運営している笹田夕美子さんと村松弘美さんに「遊び場」についてお話を伺いました。

 

▲ぶっとびコンビの笹田夕美子さん(右)と、村松弘美さん(左)

 

子どもを理由にして、大人が遊ぶ

 

ーー「ぶっとびアート」はどういった経緯でスタートしたのですか?

 

(村松)2005年の話で、私はクリエイティブサポートレッツ(※1)で働いていて、障がいのある子どもたちと絵を描いたり、音楽を楽しんだりする講座を担当していました。当時はまだ発達障害という言葉が一般的ではない時代で、明らかに障がいがあるといよりも、もう少しグレーゾーンの子たちが遊べる場が欲しいなと考えていました。

 

(笹田)私は、通称「はままつ友愛のさと」、浜松市発達医療総合福祉センター(※2)に勤めていました。そこに来る子はみんな面白い子ばかりなんですが、幼稚園や学校など、集団生活になると“困った子”になってしまう。でも、この子たちの面白さを、そのまま面白がれる場があったらいいなと考えていました。レッツの理事をしていたこともあり、村松さんと一緒にレッツの講座として「ぶっとびアート」をすることになりました。3年ほど経って、レッツが組織改編することになり、そのタイミングで任意団体として独立しました。

 

 

ーーワークショップに参加したことがあるのですが、子どもも、大人も一緒になって楽しんでいるなという印象を受けました。

 

(笹田)最初は子どものための場所でしたが、途中から大人が思いっきり遊べる場になればいいんだなと気づきました。

 

(村松)いつも私たち二人で運営していたんですが、あるとき予想以上にたくさんの子どもが参加して、これはもう完全に手が足りない(笑)。必然的に、親御さんに参加してもらうことになりました。と言っても親御さんは子どもの見守り役ではなく一緒に遊んでもらうようお願いしています。

 

(笹田)これがきっかけで、「子どもの遊び」を理由に、多少強引にでもいいから大人が遊ぶ場や時間が必要なのだと気づきました。

 

ーーもう少し詳しく教えてください。

 

(笹田)子どもがいなければ、大人は自分のことをしていたいのが本音だと思うんですね。疲れていて寝ていたい休日でも、冬の寒い日でも、子どもがいると遊びに出かけなくちゃいけない。でも、実は、そういう時間を強制的にでももつことが大人にとって大切。子どもと一緒に遊んでいるうちに、大人も遊びに面白みを見つけ出していくんです。

 

ーー河原で一緒に水切りをしていて夢中になってしまうように。

 

(笹田)そうそう。子どもって身体的に成長していないから、作りたいものがあっても、技術的に作れない。でも、大人になると技術があるから作れてしまう。例えば、「段ボールで大迷路を作ろう!」というワークショップで、あるお父さんは迷路の角をRにしたい(曲げたい)と夢中になっている。小さな頃作れなかったものが、今は作れてしまうから、子どもをほったらかして真剣になってしまう(笑)。でも、子どもだけでなく、大人も一緒になって遊ぶことで、場がぐっと健全になるんです。

 

(村松)ワークショップの最後にある発表タイムで大人が発表すると、私たちめちゃめちゃほめるんですよ(笑)。大人も喜んでくれるんですが、何より、ほめられた親を見ている子どもたちが本当にうれしそうな顔をするし、作品を作った親を「僕のお父さんだよ」と自慢したりします。

 

 

子どものための場を作ったら、いつしか大人が思いっきり遊べる場にもなって、そのことが子どもの喜びにもつながるという、いい循環が生まれているんですね。後編では、活動を10年以上続けてこられた原動力について伺います。

 

ぶっとびアート
2005年、静岡文化芸術大学でまちづくりを学び、子どものワークショップやデザインを専門とする村松弘美さんがNPO法人クリエイティブサポートレッツの一講座としてスタート。2006年に臨床心理士の笹田夕美子さんが加わり、ぶっとびコンビを結成。障がいのある、なしに関わらず、子どもと、子どもを取り巻く大人たちが、その人らしくいられる場所作りを目的に活動を続けている。「発電しよう!」「拾ったものを売ろう!」「石とタッパー、さぁ、どうあそぶ?」など、これまで120回を超えるワークショップを開催している。
https://buttobi.hamazo.tv/

 

※1 特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ
障がいや国籍、性差、年齢などあらゆる「ちがい」を乗り越えて、人間が本来もっている「生きる力」「自分を表現する力」を見つめていく場を提供し、さまざまな表現活動を実現するための事業を行い、全ての人々が互いに理解し、分かち合い、共生することのできる社会づくりを行う。
http://cslets.net

 

※2 浜松市発達医療総合福祉センター「はままつ友愛のさと」
浜松市が設置した医療と福祉の複合施設で、現在は浜松市社会福祉事業団が指定管理で管理・運営を行っている。「こころ」や「からだ」の発達が気になる子どもを対象に医療を担う「友愛のさと診療所」、児童発達支援センター「ひまわり」、何らかの支援を必要とする成人の方が通所する3つの福祉施設などからなる。
https://www.h-hattatsu.com/

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