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2018.03.29

新しいものづくりが生まれる仕組み YU MATSUDA DESIGN 代表 / プロダクトデザイナー 松田 優

 

今、浜松で起きている面白いこと。

まだ、小さなムーブメントかもしれないけれど、

なぜか惹きつけられてしまう不思議な魅力がある。

その秘密を探ってみると、「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。

 

〜あなたの地域の強みは、何ですか?〜

▲  bokuno

 

楽器や自動車、オートバイのメーカーが本社を置く「ものづくりのまち・浜松」には、大手メーカーのみならず多くの中小企業が存在していますが、近年では生産工場の統廃合や海外移転など、製造業を取り巻く環境は厳しい状況にあります。今回は、浜松の家具メーカーと新しい製品「bokuno」を製作するなど、地元企業とコラボレーションしたプロジェクトを行う、プロダクトデザイナーの松田優さんを訪ねました。クリエイティビティと産業が出会うことで生まれる、新しいものづくりの可能性についてお話を伺います。

 

▲プロダクトデザイナー 松田 優さん

 

地元に貢献する使命感

 

ーー松田さんはフリーランスで活躍されていますが、企業からの依頼はどのように来るのですか?

 

(松田)「bokuno」の場合は、DORP※が発行するフリーペーパーのインタビュー記事を見たと連絡があったのがきっかけです。他にも、浜松地域イノベーション推進機構主催の商品開発ワークショップに参加したことがきっかけだったり、紹介してもらったりと、さまざまですね。そもそも、僕が知っている限りで浜松にプロダクトデザイナーは数人しかいません。さらに、マスプロダクトと呼ばれる量産品のデザインをする人はさらに少なく、競合があまりいないのも声をかけてもらえる理由だと思います。

 

ーーものづくりを行う企業は、デザイナーを欲している訳ですね。

 

(松田)大手企業にはインハウスのプロダクトデザイナーはいますが、中小の企業になるとデザイナーはほぼいません。浜松の産業って、大手企業の下請け仕事が多い。極端に言えば、大手以外は自社製品、エンドユーザー向けの製品を作っている企業が少ないから、デザイナーは必要なかったんです。でも今は、工場が海外に移転するなど、下請けとして危機感が増してきた。だから、生き残りの選択肢として自社製品を開発するためにデザイナーを求めているんじゃないでしょうか。

 

ーーやはり中小企業からの依頼が多いのですか?

 

(松田)そうですね。自分のスキルを発揮できるのは、そのような中小の企業だと思っています。ゼロからイチにして、それを広げていくのが得意。逆に、何百人規模の企業になると、プロダクトデザインで新しい商品を開発しても、それが根本的な解決にならないこともあります。

 

ーー浜松で仕事を始めたのは、需要があるからでしょうか。

 

(松田)浜松出身で、もともとここで独立するつもりでした。浜松の産業の特徴は、仕事を始めてから気付いた感じですね。浜松が下請けの仕事をする企業が多いまちで、プロダクトデザイナーがいないのも面白いなと感じましたし、何より、地元企業の技術を使ったものづくりで、地元企業の生き残りに貢献するという使命感みたいなものも感じていました。

 

 

潜在的な価値を見つける

 

ーー仕事はどのように進めていくのですか?

 

(松田)依頼をそのまま受けない、というのが重要かも(笑)。依頼の時点で先方からアイデアがあったとしても、そのアイデアが良くなければ、いいものができませんから。バリューグラフ※を書きながら、課題の根本は何か、自社の強みを生かした商品になっているかなど、マーケティングの視点でロジカルに説明するようにしています。

 

ーーヒアリングや事前準備に時間をかけるということですね。

 

(松田)アイデアに対する判断基準を、クライアントと完全に共有するまでデザインはしません。「bokuno」をデザインしたのは、プロジェクトが始まって半年後ぐらい。その間は、リサーチ結果を見せ、あーでもないこーでもないと何度も打ち合わせをしました。

 

ーー判断基準を共有することでデザインへの理解が進むんですね。

 

(松田)自分と相手のそれぞれの人格で見るのではなく、ふたりの共有した人格で見るというか。会社の社長さんはデザインに関しては素人同然の人が多く、デザインを見る目や、俯瞰してみる目を必ずしも持っていません。あるアイデアがいいと思い込むと、別の課題点があるにも関わらず、それが見えなくなってしまうことが多々あります。いろんな視点で判断し、他の案と比較できるようにするのも目的の一つです。

 

ーーそこまでする理由は何でしょうか。

 

(松田)ちゃんとロジカルに考え、理由があってデザインしても、独りよがりなデザインと思われてしまう場合もあるんです。価値を分かってもらえないと、デザインフィーをちゃんともらえないから(笑)。地方都市だと、デザインフィーってすごく安く見られていて、東京と比べてゼロが1つ違うこともある。時間を使って、調査していることも理解してもらいたいと思っています。

 

ーー上手くいかないこともあるんですか?

 

(松田)僕ではないですが、よくある話が、クライアントがかつての成功体験から抜け出せないとか、営業の意見が強すぎてデザインに口を出しすぎてしまうとか(笑)。そうなると、新しいものを作るというよりも、お客さんのニーズに応えるだけになってしまいます。僕が楽しいと感じるのは、ユーザーもクライアントも気付いていないような、「言われてみたらそうだったね」という潜在的なニーズを発見して、形にすることですね。

 

 

地域に根ざすことでできる仕事

 

▲  POP UP ANIMAL

 

ーークライアントワークだけでなく、自主制作もするのですか?

 

(松田)はい。例えばここに、アルミホイルと布を縫い合わせたものがあります。破れず、形状を記憶できる素材で、平面が立体になる面白さがあります。誰かに頼まれたというわけではなく、「なんとなくおもしろいかなぁ」と思いながらいじっていてできた素材です。これがあったから「POP UP ANIMAL」という商品になりました。端材を使った小皿のアイデアを見た方から、つげ櫛の制作依頼がきたこともあり、自主プロダクトがきっかけで仕事につながることはあります。

 

ーー仕事と自主制作の両方をやることのメリットですね。

 

(松田)仕事としてのクリエイションって、条件があるし、結果として売れないといけない。自主制作をすると、作家性に対して仕事が来るんです。自分がしたいことや表現したい仕事と、クライアントに求められる仕事が、だんだんと近づいてくるという良さがあります。もちろんクライアントのために仕事をする訳ですが、作家性に対しても仕事をいただけるようになったらうれしいですね。

 

ーープロダクトデザイナーというと「形をデザインする人」というイメージですが、松田さんの話を聞いていると、素材を作ったり、作り方を考えたり、企業が抱える課題の本質に踏み込んだりしていて、デザイナーの仕事って何だろうと考えてしまいます。

 

(松田)それは僕も考えるところで、最近「デザイン思考」という言葉が流行っていて、経営にもデザインという言葉が使われるようになってきました。そんな時代だからこそのデザイナーの専門性って何だろうと考えてみると、やっぱり、形を作れるという根本的なことかなと思います。

 

ーー浜松で仕事をしていて良かったと感じることはありますか?

 

(松田)浜松って、地方都市の分かりやすいモデルだと思います。この場所で、家具メーカーのブランドを立ち上げたり、バネメーカーと新しい商品を開発できたりしたのも、クライアントとの距離が近いからだと思います。別の言い方をすれば、住みながら仕事をしていたからだと言えます。クライアントの工場や現場が近く、長くいられるおかげで、バネの機械を自分で設定して操作できるようになりました(笑)。そんなプロダクトデザイナーはいないと思いますよ。住んでいるからこそできる仕事、機械のことを知ったからこそ分かることがあります。地元に根ざし、僕はこれからもここでものづくりをしていきます。

 

ーー今後の展望を教えてください。

 

(松田)新しく入るスタッフには、まず浜松で学んでもらった後、別の地方都市に住みながらその地域にある技術を学び、ものを作ってもらおうと思っています。いろいろな地域に住みながらものを作る人を増やし、それぞれの地域で培われた技術を学ぶ。そんなデザイナーたちのネットワークが、それぞれの地域の中小企業のものづくりに関わる問題を解決できるんじゃないかと思っています。

 

 

(まとめ)

「その地域に住むからこそ、できる仕事がある」と断言する松田さん。この言葉に勇気づけられるクリエイターは少なくないのではないでしょうか。アイデアを形にするデザイナーの創造性と、地域で培われた高い技術との出会いが、浜松のものづくり産業における問題解決の突破口として期待されます。

松田さんは「クライアントの“潜在的なニーズ”を見つけ、形にすることが楽しい」と言います。そんな彼は、まさに浜松にある“潜在的なニーズ”(=ものづくりに携わる市内の多くの中小企業で、自社製品の開発のためのデザイナーの需要があること)を見つけ、地元でしかできない仕事に新しい価値を見出しています。

 

 

(プロフィール)

YU MATSUDA  DESIGN 松田 優

 

浜松市生まれ。静岡文化芸術大学デザイン研究科を修了後、デザイン事務所を経て、2013年プロダクトデザイン事務所を設立。 家具、家電、日用品のプロダクトデザインを基軸に、ブランディング、アートディレクションなどを行う。最近の仕事として、「bokuno」ダイニングチェア(FriendHouse)、「SPRING SPRING」フラワーベース(遠州スプリング)、「光の厨子」と「音叉のおりん」(大伸木工)、ゲルインキボールペンの「SAKURA craft_lab」(株式会社サクラクレパス)などがある。

http://www.yumatsuda.com/

 

※DORPのフリーペーパー

浜松を中心に活動するクリエイターをつなぎ、クリエイティブの力を最大化するプロジェクトDORP(デザイナー・オープン・リソースプロジェクト)が発行する、地元クリエイターを紹介するフリーペーパー『.SOURCE』。創刊号で松田優さんへインタビューを行う。

http://www.dorp.jp/

 

※バリューグラフ

あるコンセプトの、より上位の目的や代替案を構造的に考える手法

 

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