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2016.01.19

新しい可能性が生まれる状況をつくる[前編] 大東翼さん

いま、浜松で起きている面白いコト。そこには必ずキーパーソンがいます。
彼ら彼女たちがいるからこそ、面白いコトが起きている。
その発想を紐解くと「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。

〜想像していない状況に出会ったとき、

   あなたはどんな行動をとりますか〜

 

セミナールーム「黒板とキッチン」

セミナールーム「黒板とキッチン」

 

新しい出会いの場をつくる

赤電の第一通り駅から歩いてすぐ。ゆりの木通り商店街に佇む万年橋パークビル1階に、セミナールーム「黒板とキッチン」はあります。ガラスの引き戸を開けると、2面の壁を覆う大きな黒板とアイランドキッチンが印象的なユニークな空間。カメラやフラワーアレンジメントのワークショップやトークイベント、交流会などが定期的に行われています。日中はフリースペースとして誰でも自由に利用することができ、学びと交流の場として街に開かれています。

こちらを企画・運営しているのは、プロジェクトの企画・マネジメント、建築設計などの仕事を行う「株式会社大と小とレフ」。住宅や店舗の設計、浜名湖花博2014「花みどりアート回廊」のアートディレクション、「楽×学2014」の企画運営のほか、ふじのくに⇄世界演劇祭2015では演劇の演出を行うなど、幅広い領域にわたりクリエイティブな仕事を手がけています。

今回は、大と小とレフの共同設立者であり、黒板とキッチンの設計を手がけた建築家の大東 翼(おおひがし たすく)さんを訪ねました。

 

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「ここは鈴木基生さん(万年橋パークビルを管理する田町パークビル社長)からお話をいただいて、街に開かれた、人とのつながりが生まれる場所を意識して設計しました。以前と比べてファサードを大きく変えて通りに開き、あとは学びの象徴である黒板と、生活や交流を意味するキッチンをひとつの空間に入れることで、新しい何かが生まれることを期待しています」

「ここに来る人は、自分の興味がはっきりしている人が多いですね。とはいえ、セミナーやワークショップをきっかけに興味を持ってもらい、新しい出会いがあればいいかなと思っています。日中無料で使えるこんな場所は珍しいと思います」

—最近では、建築家がハードだけでなく、まちづくりやコミュニティの在り方に関わる事例が増えています。大東さんも街中のイベントやプロジェクトでもお仕事をされていますよね?

「そこには、世代的な背景もあると思います。僕たちのひとまわり先輩はバブル期を体験していて、ものをバンバンつくる時代でした。キャリア形成の道筋も見えていたし、職能を問い直す時間も無いくらい忙しく、その必要もなかったのではないでしょうか。逆に僕らの世代は状況が変わって、建築を学んでいる頃から、ものをつくらない時代に変わっていきました。ただ、ものをつくらなくても、状況を構築するとか、形に見えない関係性をつくるとか、そういったことも建築家の職能のひとつだと考えます」

 

 コントロールできない状況を楽しむ

兵庫県で生まれた大東さんは、3才で浜松に引っ越し、高校までここで育ちます。小さな頃から絵や図工が好きで、進路は工学部の建築学科を目指していました。高校の冬、当時流行していたミッチェル・ワールドロップの「複雑系」※1 に出会います。実体経済というよりも、その理論や概念に興味がわき、進路を変更。関西の大学で経済学を学ぶことになります。

「でも入ってみたら面白くなくて(笑)やっぱり建築かなということで、大学2年生から3年生にかけて夜間の建築系専門学校に通うことにしました。仕事というと大げさですが、在学中に空間をつくる仕事をさせてもらった経験は大きかったです」

大学卒業後も就職せず、個人の活動を続けた大東さん。インターンでお世話になった浜松の工務店で4年ほど修行した後、大阪に戻り、建設設計事務所を設立。住宅の設計やマンションのリノベーション、アーティストのインスタレーション※2 のサポートや、友人と建築事務所を共同主宰するなど、活躍の場を広げていきます。

「興味があるのは、複数のパラメーター※3 を同時に走らせたとき、どのような状況が構築されるのかということ。同時に動くことで互いに影響し合い、状況が変わることに興味があります。ひとりの人間が創造することの豊かさや意義を認識したうえで、ひとりでは限界があると僕は考えます。強い個人の理想だけではダメだと思います」

—それは、リーダーシップを信用していないことでしょうか?

「もちろん信用している部分もあります。例えば建築現場ではリーダーシップのある棟梁や現場監督がいるとうまくいきます。ただそれは、完成というゴールをモノとしても時間としてもみんなが共有しやすい環境で、いわゆる社会で過ごすには欠かせない大切なことです。ただ、思考や行動がある1点を目指していく状況は、放って置いても自然に生まれます。状況から要請されるといってもいい。例えば企業の経済活動や議会における政治は目標を予め明確に描く必要があります。でも僕は、そうじゃない状況を見たいんです」

 

取材時、黒板には「アートルネッサンスinはままつ」に出展したイラストレーターによる作品が描かれていた

取材時、黒板には「アートルネッサンスinはままつ」に出展したイラストレーターによる作品が描かれていた

 

「黒板とキッチンは、どこかゴールを目指し状況をコントロールしている訳ではありません。コントロールすることは難しいというか、このような場はコントロールしきれないです。言葉は適切ではないかもしれませんが、初期設定だけしたと言えます」

「自分だけの回路ではつかみきれない場合でも、他者の回路を援用することで、理解が深まることもある。ゴールや状況が不明瞭なとき、複数の視点は有効ですし、ブレイクスルーにつながりやすいと思います。ただ、状況をつくったとしても自走できなければダメで、そのために何が必要で、どんな環境が必要か、想像し考えるスキルが求められます」

 

※1 複雑系
『複雑系―生命現象から政治、経済までを統合する知の革命』新潮社 1996年

※2 インスタレーション(Installation)
現代芸術において、従来の彫刻や絵画というジャンルに組み込むことができない作品とその環境を、総体として観客に呈示する芸術的空間のこと。(出典/大辞林)

※3 パラメーター
プログラムの動作を決める数値や文字。ここでは、外部から場に加わり、結果に影響を与える要素や環境のことをいう。例えば、池に石を投げると波紋ができるが、池は場であり、外部から投げられる石はパラメーターとなり、できる波紋の形が結果になる。投げる石の数や大きさを変えることで、複雑な波紋ができあがる。

 

大東翼
兵庫県生まれ、浜松市育ち。株式会社大と小とレフ代表取締役。建築家として大阪にて活躍後、2011年、浜松に拠点を移す。住宅や店舗の設計、さまざまなプロジェクトの企画運営に携わる。2013年には、鈴木一郎太とともに大と小とレフを共同設立。

株式会社大と小とレフ
セミナールーム「黒板とキッチン」の設計・企画・運営、浜名湖花博2014「花みどりアート回廊」のアートディレクション、「楽×学2014」の企画運営のほか、ふじのくに⇄世界演劇祭2015では演劇の演出を行うなど、活躍のフィールドは多岐にわたる。

黒板とキッチン
ゆりの木通りにある、キッチン設備があるセミナールーム&交流スペース。セミナーやワークショップ、イベントなどを開催するほか、日中はフリースペースとして解放している。
http://kokubantokitchen.wix.com/bbandk

 

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