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2021.01.19

人の思いに耳を澄ませて、本をつくる。[後編] 村上製本/村上亜沙美さん

~心の声を残していますか?~

ロンドンで本をつくる技術を身につけ、2020年に浜松の街角に製本所をオープン。村上亜沙美さんの製本活動が本格的に始動しています。後編では、村上さんの本をつくる上で大切にしている思いについて、さらにお話を伺っていきます。

 

 

▲切れ味鋭い断裁機の取り扱いも自由自在

 

 

―― お店のフロアすべてが製本所ではないんですね?

(村上) 1階はこの建物の管理人さんが運営する食堂と私の製本所とでシェアして使っています。2階はシェアオフィスなんですよ。なので、食堂のお客さんは私がピリピリしながら本をつくっている姿を見ながら、ごはんを食べることになるかもしれません。そういうのもなかなかいいんじゃないですか(笑)。

 

―― ロンドンの街角の製本所に近い環境ですか?

(村上) そうですね。道を歩く人から全部丸見えですからね。先日も断裁機で紙を切っていたら、通りがかりの小学生が不思議そうに「なにしてるの?」って声をかけてきたんです。「本をつくっているんだよ」と答えると、「本ってつくれるの?」とびっくりしていました。

▲人々の営みを肌で感じられる、街に溶け込んだような作業場

 

 

―― 日本だと出来上がった本を買うばかりで、本をつくるイメージはないですよね。

(村上)本屋さんに並ぶのは、発信力や影響力のある人の本ばかりですよね。でも私は、「自分は素人だから本なんて…」という人でも本をつくっていいと思うんです。もっと気軽に本に残していい。

 

―― 自分の本とは、なかなか敷居が高いです。

(村上) だからこそ高い敷居を少しでも低くしたい(笑)。普通に暮らしている人の言葉がもっと大切にされるといいと思うんですよね。ロンドンから帰ってきた頃、思ったことがあるんです。それは「みんな同じ言葉を使ってしゃべってる」ということ。話をしていて、「あれっ、前に会った別の人と同じ言葉だな」って感じることが多くて。どこかで同じ言葉をインストールしたみたいに感じたんです。もっと、思い思いに自分の言葉を吐き出したらいいって思うんですよ。自分の内なる声を紙の上に置いて、それを積み重ねていけば、自然と自分の本ができるのになって思います。

 

―― 自分の内なる声を紙の上に置く?

(村上) 親にも友だちにも言えないことってあるじゃないですか。それを一文字一文字、紙の上に置く。そんな秘めた言葉が置かれる場所も本の役割のひとつなのかなと思います。私自身、書くことと読むことで救われてきたので、余計、そう思うのかもしれませんけど。なので、私、本のほかにノートも作ってます。いろいろ気軽に書いてほしいなと思いますね。

▲思いついたらすぐに書き込めるサイズの「観察ノート」

 

 

―― そして、ページが埋まってきたら、村上さんに本にしてもらうんですね。

(村上) もちろんどうぞ。1冊でもつくりますよ。ページのレイアウトから、紙の選定、装丁などご相談の上で形にしますので(笑)。

 

―― 村上さん流の本のつくり方を教えてください。

(村上) 私は自分のカラーを出すタイプではないですね。それよりもオーダーされる方と本との関係性をよく見て、どういう本だったらいいのかなと熟考するタイプです。それは本をゼロからつくる場合もそうですし、壊れた本を修復する場合も同じです。

本で一番大切なのは中身。中身と装丁がちぐはぐなのが嫌なんです。ゼロから本をつくる場合は、そこに書かれてあるテキストに耳を澄ませて、読む人が自然と中身に没頭できるような本に仕立てる。そんなデザインを意識しないデザインが好きですね。

修理を依頼された場合は、本と会話しながら修理をしています。その本の使われ方、綴じ方、使われている紙、使われているインクなどに思いを巡らせて、あるべき姿に整える。水害に遭った本を直したことがありますが、傷み方から水に沈んだ時の光景を本が伝えてくるんです。完全に元通りに戻すことは難しいんですけど、できる限りのことはやりたいと自然に思えてきますね。もちろん、持ち主の方と相談して直し方は決めていくわけですけど。いずれにせよ、意味もなく自分を主張するようなデザインはしないほうですね。ご依頼があれば思う存分やりますけど(笑)。

▲グラデーションがかった刺し子の糸を和綴じに用いるなど、既成概念に囚われないのも村上さん流

 

 

―― 作業はすべてお一人で進めているんですか?

(村上) 仕事の中身によってですね。何より素晴らしい仲間がいますので、そういった方と協力することでどんなお仕事にも対応できるんです。例えば、製本教室で知り合った方からご紹介いただいた、全国的に見ても群を抜く加工技術を持つ会社さん。私のわがままな依頼に嫌な顔ひとつせず応えていただけますし、私の手作業に精巧な機械技術を合わせることで、今まであきらめていた本もつくれるようになりました。

 

―― 思えば、なんの所縁もない浜松で、不思議なご縁ですね。

(村上) 浜松のことをなにも知らない外から来た私ですけど、製本教室がきっかけになって、自分の場所を見つけたいと思って製本所をつくりました。実際、こうして街の感じを見ながら作業できることが気持ちいいですし、やりたかった仕事ができていると改めて感じています。

 

 

▲製本展では製本教室に参加した生徒さんの作品が展示されている

 

 

―― これからの仕事に夢が膨らみますね。

(村上) 今後もこの場所でこのスタンスで仕事を続けていけたらなと思いますね。SNSに載せるコメントと違って、紙に残す言葉って、モニター越しに読む文字とは質感そのものからして違うと思うんです。

 

 

 

すでにこれまで写真集や絵本、書籍や、水害にあった本の修復や長年使われてきた楽譜の補修など、依頼者の思いを十分に汲み取った仕事を手掛けてきた村上さん。自らの手でつくり上げた製本所を拠点に、今後も誰かの思いに寄り添って「本」をつくり続けていくに違いありません。村上さんのお話で、読むだけのものと思っていた本が身近になったとともに、自分のための本をつくることがもっと日常のことになる可能性も合わせて感じることができました。

 

 

 

村上製本 村上亜沙美

高校卒業後、単身、イギリスに渡り、London College of Communication – University of the Arts London (ロンドン芸術大学)BA Book Arts and Designで本づくりを学ぶ。ロンドン留学中、製本所でインターンとして働くなかで、日本では見られなかった人と本の関係を体験。帰国後は東京でブックデザイナーとして活動。結婚を機に浜松に移住し、鴨江アートセンターで製本教室などを開催したのち、2020年、浜松市中区に「村上製本」をオープン。かつてロンドンで経験した人と本の関わりを求めて、今日も本づくりに取り組んでいます。

http://asamimurakami.com/

 

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