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2017.03.03

新しい技術を社会にインストールする[後編] 竹村真人さん

今、浜松で起きている面白いこと。そこには必ずキーパーソンがいます。
彼ら彼女たちがいるからこそ、面白いことが起きている。
その発想を紐解くと、「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。

~イノベーションを起こすのは誰ですか~

新しい技術は、“モノづくり”をどのように変えてくのでしょうか。中国の深セン(しんせん)を例に、竹村さんによる未来の話が始まりました。

「モノづくりのまち」が意味するもの

「深センはとても面白い街ですよ。開発が始まってから35年ほどの若い街。面積は東京よりも小さく、秋葉原の10倍以上の規模があるといわれる電子街があって、そこに行けば何でも揃う。世界中からさまざまな技術と人が集まり、ハードウェアスタートアップ(モノづくりでの起業)を目指しています。アメリカの投資家も注目していて、毎年15組ほどのスタートアップ企業を受け入れ、3ヶ月でプロトタイプを作らせる。シリコンバレーでプレゼンを行い、投資家から何千万という資金を集めている。アメリカンドリームとチャイナドリームの真っただ中にある街です。

▲深センの街並みを描いた地図

深センでの1週間はシリコンバレーの1ヶ月に相当するといわれるくらい、目覚ましいスピードで新しいモノが生まれています。「やらまいか精神」あふれる浜松市も楽器や輸送機器、光・電子技術などの分野で、さまざまなモノや技術を開発し、経済を牽引してきました。「ただ、今の浜松を深センと比べたとき、『モノづくりのまち』といっていいものか、劣等感にも似た悔しさがあります」と竹村さんは話します。

「とはいえ、浜松は『モノづくりのまち』から『モノづくりしないまち』へ変われるかが重要だと思います。スマートフォンを販売しているアップルもグーグルも自社で一切作っていませんが、モノづくり企業として認知されています。例えばモノを作っても売れないというような開発費用が埋没してしまうなど、モノを作ることにまつわるリスクを減らしつつ、どうモノづくり企業であり続けるか、そんな禅問答のようなことを考えています」

▲「Maker Faire」のポスター。ものづくりの楽しさが伝わってくる

「ファブラボ浜松がそこにどう関わっていけるかは分かりませんが、ここに来てくれる人たちの意識がどんどんアップグレードされていったらいいなと思っています。気付いたらそういう人たちが浜松で面白いことをしている、そんな未来を夢見ています」

変わるモノづくりのスピード

これまでの日本のモノづくりは時間がかかるといわれていました。マーケットリサーチに3ヶ月、経営会議の了承を得るのに2ヶ月。そこから実際に設計し商品を完成させ、売り出そうとしたらすでに2年も経過していたという例え話もあるほどです。当然、発売時には市場のニーズがなくなっていて、商品が売れない。「デジタル工作機器が普及した今、そんな開発プロセスが急激に変わりつつある」と竹村さんは指摘します。

「アイデアはあるけれど実際に売れるかどうかは分からない。でもプロトタイプを作って何人かに見せたら評判が良かった。そこでクラウドファウンディングで資金を募ったら、1000人もの買い手が集まった。販売してみたらブームになり、1万個も売れた。そんなスピード感ある開発が、実際に行われています。企画書やスケッチではなく、アイデアが伝わる程度のもので構わないから、まずは『形』として作ってみることが大事です。実際に物として見られるのはとても重要で、コミュニケーションが進み、試行錯誤のスピードが圧倒的に速くなります」

「アップルのスティーブ・ジョブズが若かった頃、ギーク(※)が集まるカンファレンスに足繁く通っていたといいます。そこでは見たこともない素晴らしい製品や、くだらないモノが次々と生まれていました。でも、そんな何でもありの環境の中からアップルコンピューターは誕生した訳です。『ファブラボ浜松/TAKE-SPACE』は、そういったものを意識しているし、同じようなことができたらいいなと思っています」

雰囲気が変われば、社会が変わる

取材の中で竹村さんが見せてくれたのは、ハーバードビジネススクールの論文に掲載された1つのグラフ。多様性と品質の関係性を表したもので、縦軸がイノベーションの起こる割合、横軸がメンバーの多様性を示し、青い線は平均値を表しています。

Perfecting Cross-Pollination by Lee Fleming

https://hbr.org/2004/09/perfecting-cross-pollination)

 

 

「日本で良いとされるのが左側の領域。同じような背景、考え方、技術を持った人が集まり、狙った通りの優れたものが生まれます。でも、革新的なものは生まれにくい。一方で右側の領域、いろんな専門性を持った人、それこそ主婦や怪しいおっちゃんを入れると、平均値は下がってくだらないものもたくさん生まれますが、飛び抜けてイノベーティブなものが生まれることがある。注目すべきは、革新的なものを生み出そうと思ったら、その何倍ものゴミみたいなものを許容しなくてはいけないということです」

 

「このグラフを見た時、『多様性ってこういうことなのか』と感じました。浜松の場合、保守的って言葉が正しいか分かりませんが、こういうものを嫌う傾向があるなと思いました。そうですよね、産業の街って、決まった時間に出社して、決まった仕事をして、一定の品質のモノを作ることが良いという雰囲気がある。ノイズや不確定要素は必要ない。でも、それを続けていったら、どうなってしまうのだろうという不安はあります」

「最近、行政の方と話すときに心掛けているのが、『そっと見守ってくれればいいですよ』というスタンス(笑)。日本って、訳の分からないことをしていると叩く文化というか、グレーゾーンにうるさいじゃないですか。グレーはブラック。何かするなら許可申請や届出を出してくださいと注意される。でも、そんなこと言われたら、『まずはやってみよう』という気持ちが萎えてしまう。『迷惑をかけないならOKだよ』と言ってくれたら、もっといろんなことに挑戦する人が増えると思いますよ」

「その点で、企業よりも個人の方が動きやすいと思います。『個人の趣味から始まったモノづくりが、大学と結びついて研究費をもらいました』、となったら面白くないですか?そのためにも、気軽に趣味を楽しめ、グレーゾーンを許容する文化、多様性やくだらないものを楽しめる雰囲気を大事にしていきたいですね」

▲ファブラボのメンバーで作った、天竜材を使ったウッドデッキにて

日本や世界各地で出会ったモノづくりを楽しむ人々の話、新しい技術がもたらす未来の話をする竹村さんは饒舌で、子どものように目がキラキラと輝いていました。「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE」が翻訳協力したメイカームーブメントを追ったドキュメンタリー映画『maker』の冒頭にこんな一節があります。

「私たちは消費者でいることに慣れすぎて、メイカーであることを忘れてしまった。この世界は買うのではなく、自分たちで作り出すものだと捉えること。それこそがメイカースピリッツだ」

モノを作ることは、自分を取り巻く社会や環境に働きかけること。そんな小さな一歩が、日々の暮らしを、社会を、より良いものに変えるきっかけに繋がるのではないでしょうか。

竹村 真人

「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE 」代表。プロトタイプ制作者として、ハードウェアだけでなく、プログラミングなどのソフトウェアに関する総合的な技術や知識を生かし、IoTデバイスやドローンなどの開発も行う。また、社外アドバイザーとして、企業の製品開発やブランディングなどにも携わる。3Dプリンターを使った小学生向けの出張講座など、デジタルファブリケーションやSTEM教育の普及にも取り組んでいる。

「ファブラボ浜松/ TAKE SPACE」(http://www.take-space.com/
浜松市西区西鴨江町3645番地

※ギーク(geek)
卓越した知識があることや、それを有した人を指すアメリカの俗語。

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