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2016.03.04

街と人、人と人をつなぐ場所をつくる[前編] 吉林和穂さん

今、浜松で起きている面白いコト。そこには必ずキーパーソンがいます。
彼ら彼女たちがいるからこそ、面白いコトが起きている。
その発想を紐解くと「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。

 

 〜あなたが思う街中の活性化とは、

       どのような状態ですか〜

 

「まるたま市」の様子

「まるたま市」の様子

 

まちなかのにぎわいを取り戻す

浜松市街地にある肴町商店街を舞台にした雑貨市「まるたま市」。空き店舗などを活用し、布作家やアクセサリー作家、クリエイターに学生など、さまざま作家たちが出店。2015年11月には第6回を数え、9,000人以上の人でにぎわう人気イベントに成長しました。このイベントを企画・運営しているのが「浜松まちなかにぎわい協議会」(以下、にぎわい協議会)です。

2010年に誕生したにぎわい協議会は、遠州鉄道や静岡銀行、浜松信用金庫などの民間企業と浜松商工会議所によって設立された、全国的にも珍しい民間のまちづくり会社です。「民間の活力を最大限に発揮しながら浜松市中心地の活性化を推進すること」をミッションに、リノベーションスクール、まちなか回遊促進事業、ソラモや浜松こども館の指定管理者など、さまざまな事業に取り組んでいます。

今回はにぎわい協議会の設立当初からスタッフとして活躍し、「まるたま市」の仕掛け人のひとり、吉林 和穂(よしばやし かずほ)さんを訪ねました。

 

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「にぎわい協議会のスタート時に集まったのは民間企業から5名。みんな辞令で来たので、まちづくり関しては全くの素人ばかり。まちづくりだ! 活性化だ! と言われても何をしていいのか分からない(苦笑)まずは街の人に意見を聞こうと、エリアを分けてお店を一つひとつ訪問し、どんな課題があるか話を聞くことから始めました」

最初は商店会との連携を考えていたものの、役員は年齢が高く、若い人が商店街活動に入ってこない。想像以上に組織が弱体化していると感じたと当時を振り返ります。その後、吉林さんは、愛知県岡崎市の取り組みを参考に「浜松まちゼミ」(※1)をすることになります。

「40歳くらいの若い店主を中心に声をかけ、一緒に企画を進めていきました。みなさん同世代なので中学までは同級生なんですね。でも最初のミーティングで集まったとき、『久しぶり』って名刺交換を始めるのには驚きました。街中には14の商店会がありますが、お互いコミュニケーションがない。このせまいエリアでこんな状態では活性化なんて、と正直思いました」

そんなこともあり、まちなかを商業地として再生させることは難しいと実感した吉林さん。それでも街をどうにかしたいという意志を持つ若い人との出会いもあり、利害関係の少ないにぎわい協議会が間に入ることで事業を進めていくことになります。学生やNPO、クリエイターと呼ばれる人たちに話を聞く日々が始まります。

多様な人が活躍できる場所をつくる

 

昨年、コミュニティスペース「Any」内に事務所を移転。さまざまな情報や人が集まる場として機能している

昨年、コミュニティスペース「Any」内に事務所を移転。さまざまな情報や人が集まる場として機能している

 

—吉林さんがイメージするまちなかの活性化とは、どのようなものでしょうか。

 

「活性化には明確な答えがないのかもしれません。それはまちづくりも同じで、一般の人は行政がするものだと思っています。でも、個人の活動も、企業の経済活動も街に影響を与えています。さまざまなセクターが活動していることがまちづくりであり、活性化なのではないでしょうか」

浜松の商業的な成長はバブルが崩壊したときに終わっていて、リーマンショックで決定的なものになったと吉林さんは指摘します。

「市は30年前から東街区を開発し、市街地の面積は2倍になりました。時代の変化もあり、まちなかは大きくなったものの成長はしていません。さらに郊外にショッピングセンターができ、まちなかの商店は郊外に移転したり、廃業したりすることで、密度感のない街になってしまいました。まちなかの人の密度も減っています。空間はあるのに人がいない。需要と供給のバランスが完全に逆転してしまった」

「まずは需要を増やすことが大事で、そのためにはまちなかの不動産価値を上げることが重要です。金銭的な価値だけでなく、さまざまな人が利用することでビルやその場所が魅力的に見えてきます。不動産オーナーには賃料を下げたり、リノベーションに協力的だったり、柔軟な対応をお願いしたいです。クリエイターや学生をはじめ、まちなかで何かしたいという人が増えることで、さまざまな活動が行われ街の風景が変わっていく。そんな状況が街の活性化につながっていくと考えています」

 

このお店はね…吉林さんの話を聞きながら街を歩くと、街の景色が違って見えてきます

このお店はね…吉林さんの話を聞きながら街を歩くと、街の景色が違って見えてきます

 

—一方で、街中ばかり活性化させる必要があるのか、という声も聞こえてきそうですが。

 

「新幹線が止まる駅があり、商業や行政の施設が集まっていることもあり、市の顔であることは確かですが、特別な場所という訳ではないと思います。肴町の高齢化率は40%を超えていて、これは天竜区とほぼ同じ数字になります。高齢化や空き店舗など、まちなかが抱える課題に対する打ち手は、他のエリアでも援用することができると考えます」

「にぎわい協議会がプレイヤーとして課題解決に取り組むのはちょっと違うと思います。僕たちはもともと組織の人間なので、仕掛けや仕組みづくりは得意です。まちなかでのプレイヤーを増やし、その人たちが活動しやすくなるプラットホームを提供することが役割だと思っています。プラットホームを重層的に重ねることで網の目が細かくなり、より多くの人が活動しやすくなっていくのではないでしょうか」

「大事なのは『人』です。人がいなかったら、どんなにかっこいいモノをつくっても無意味です。人がいてこそ価値が生まれてきます。面白い人がいれば、自然と人は集まってきますから」

※1 浜松まちゼミ(得する街のゼミナール)
市内にあるいろんなお店が開催するミニ講座で、お店ならではの専門知識やプロならではのコツを無料で伝える内容
http://www.hamamachi.jp/machinaka/activities/?id=9

 

吉林和穂
1958年、浜松市天竜区生まれ。1982年、浜松信用金庫に入庫し、営業推進部にて「はましん住宅友の会」などを企画。2010年、浜松まちなかにぎわい協議会に出向。不動産価値の向上を図るため、「まるたま市」をはじめ、さまざまな事業に携わる。

 

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