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2017.04.14

好奇心を育むまちの小さな本屋さん[前編]髙林幸寛さん

 

今、浜松で起きている面白いこと。そこには必ずキーパーソンがいます。
彼ら彼女たちがいるからこそ、面白いことが起きている。
その発想を紐解くと、「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。

 

~あなたのお気に入りの本は何ですか?~

 

▲こたつの置かれた和室に、選りすぐりの本が並ぶ

 

自分がいいと思った本を届ける

 

昔ながらのまちの本屋さんが閉店するニュースは、今や珍しいことではありません。深刻な出版不況の中で廃業・閉店する本屋が増加し、場所によっては本屋が存在しない市町村もあります。一方で、アパレルショップや雑貨店ではお店がセレクトした専門書が並んだり、スマートフォンやタブレットで手軽に電子書籍を楽しめたりと、本と私たちとの接点は多様化しています。

 

2016年8月に惜しまれつつ閉店した浜北区の書店「フェイヴァリットブックス」ですが、10月にはマンションの一室に移転して「フェイヴァリットブックスL(エル)」として再スタート。今回は同店代表である、髙林幸寛(たかばやしゆきひろ)さんを訪ねました。

 

▲フェイヴァリットブックスL(エル)代表の髙林幸寛(たかばやしゆきひろ)さん

 

新しい本屋さんは、前の店から徒歩1分ほど。マンションの通路には手描きの看板が出され、そこが本屋さんであることを教えてくれます。玄関の扉を開けると、靴箱の上に置かれた本がお出迎え。2DKの部屋には書籍や雑誌、文庫本、コミック、絵本、CD、レコードなどが所狭しと並んでいます。和室にはこたつがあり、髙林さんが丁寧に淹れたコーヒーを注文してくつろぐこともできるので、本屋さんというよりも、本好きのお兄さんの家に遊びにきたような感覚になります。

 

▲入ってすぐ、靴箱の上に本が並ぶ 

ーーユニークなスタイルの本屋さんですね。

 

「まだ思い描いたようにはできていないけど、お店というより、『場』にしたいと思っています。本を手にとって買っていくお客さんもいれば、仕事帰りにふらっと寄ってコーヒーを飲んで、俺と話をして帰っていく人もいます(笑)。お子さんを連れたお母さんや年配の方など、いろいろな年代の方が来店します。」

 

ーー本屋さんを再開した理由を教えてください。

 

「お店を閉めた後もヘアサロンや病院、学校の図書館などへ本の配達は続けていました。そうしたら、雑誌やコミックの定期購読をそのまま続けたいと言ってくれるお客さんも多くて。事務所を兼ねて、こんな形で続けるのも面白いかなと思ったのがきっかけです。」

 

「いわゆる『セレクトショップ』のカテゴリーに入るんでしょうけど、本屋ってどこもセレクトショップなんですよ。何十万、何百万点という本の中から自分が選んだものを置いてあるわけだから、その時点でセレクトショップ。世の中の全ての本を置いているわけじゃないですから。」

▲雑誌も置かれている

 

ーーどんな視点で選んでいるんですか?

 

「それはですね……(しばらく考えて)、『勘』ですね(笑)。誰かが言っていたんですけど、新しい本が入ってきたら、表紙とタイトル、作者を見て、次に目次を見て、最初のページをちょろちょろっと読んで、『これはこんな本だな』と見極める能力というのは本屋さんに必要なスキルですね。」

 

「本屋には、『見計らい配本』といういわゆる問屋である取次会社が本も雑誌も勝手に選んで届けてくれるシステムがあります。便利な反面、自分が置きたい本は注文しないといけないし、扱いづらい本や新刊でないものも送られてくる。以前はそれがとてもストレスで…。今は100%自己発注だけでやっているので、とても楽ですね。」

 

ーー髙林さんのカラー全開ということですね

 

「とはいえ、僕が一方的に『いいよ』というのでなく、ここに来る人の好みにあわせた品揃えもしています。例えば若い子はお金がないから、『小説などはハードカバーよりも文庫本がいい』と分かって文庫本を増やしました。そういう意味では、前の店の方がこだわりがあったかなと。」

 

▲お気に入りのレコードやCDが見つかるかも

毎日の暮らしの中で文化を提供できる店でありたい

ーーいい本とはどのようなものですか? 何回も読み返したり、何か行動につながったりする本のことでしょうか?

 

「それは個人個人で違っていて、決めるのは買って読んだ人だと思います。俺としては、何かのきっかけになるのがいい本なのかなと思います。例えば自分がこれからどうしようか迷っているときに、本を読んで何かのきっかけを探すのもいいと思います。本を読む人はなんていうんだろう・・・、暗いことを考えたくないじゃないですか。そういうときに本を開くと、気持ちが安らぐというか、それは音楽と同じなんですね。」

 

「人生はお祭りのような『ハレの日』もあるけれど、ほとんどは『ケの日』。そんな普通の日の、何気ない暮らしの中に『文化』がちゃんと入ってくるといいなと思うんです。日常的に本を読んだり、音楽を聴いたり、何でもいいんですけど、そういうのがあることでちょっと楽しくなるといいなと思ってお店をやっています。」

 

▲落ち着ける空間で、じっくりと本が選べる

 

ーー本屋さんは、そっと文化を支えている存在なんですね。

 

「よく言われるんですけど、本屋が1つ閉店しても、どこかの本屋の売上げが上がるかというとそうじゃなくて。『近所だから』、『通勤途中にあるから』行くっていう人が一定数いる。彼らはふらりと本屋に来て面白い本があると買う人たち。だから、本屋がなくなると別の本屋に行くのではなくて、本屋そのものに行かなくなってしまう。雑誌やマンガを読んでいた子も、『もういいや』と言って本を読まなくなってしまうんです。」

 

「前の店は広い駐車場があったので、作業着や制服にカーディガンを羽織って来る人も多かったです。『ショッピングモールとかに本屋があるじゃん』と言うけれど、他のお店もあるから、そういう格好ではやっぱり入りにくいみたいです。うちみたいなまちの本屋がなくなることは、本を読まなくなる人や、日々の暮らしの中で文化に触れる人がいなくなることでもあるんです。」

 

髙林 幸寛

フェイヴァリットブックスL代表。浜松市出身。実家の家業を手伝いながら、2007年11月、独立系新刊書店「FAVORITE BOOKS(フェイヴァリットブックス)」をオープン。イベントでの出張本屋や店内での音楽ライブなど、本屋の枠を越えた活動を行う。2016年8月に惜しまれつつ閉店。お客さんの要望に応え、2ヶ月後に「FAVORITE BOOKS L(フェイヴァリットブックス エル)」として再開。好奇心を刺激するような本や音楽を届けている。

 

「FAVORITE BOOKS L(フェイヴァリットブックス エル)」

浜松市浜北区中条1490-1ハピネスマルカ203

https://www.facebook.com/favoritebooksmusic/

 

 

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