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2016.06.10

中山間地域に貢献し、そこで暮らす人を励ます学問の追究[前編] 舩戸修一さん

今、浜松で起きている面白いコト。そこには必ずキーパーソンがいます。
彼ら彼女たちがいるからこそ、面白いコトが起きている。
その発想を紐解くと「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。


〜テレビで見るニュースに、

  どれだけリアリティを感じますか?〜

 

現地を訪れ、そこに住む人の声を聞く

 

中山間地域にこそ閉塞した社会を変えるヒントがある

2005年、浜松市と周辺11市町村が合併し、新しい浜松市が誕生しました。面積は1,558平方キロメートルになり、岐阜県高山市に次いで2番目に広い市となりました。しかし、その約7割は中山間地域と呼ばれる農山村地域。かつては農業や林業を中心とした地域でしたが、現在では人口流出や少子高齢化による過疎化が進み、自治会活動や冠婚葬祭といった地域社会のコミュニティ機能がうまくいかず、山の文化や伝統の継承が危ぶまれる状況にあります。人口減少による担い手不足もあり、耕作放棄地の増加や森林の荒廃も喫緊の課題です。浜松市では「浜松市中山間地域振興計画(山里いきいきプラン)」などを策定し、中山間地域の問題解決に取り組んでいます。

5回目となる今回は、天竜区の熊や春野、龍山、佐久間などをフィールドに、浜松の中山間地域の現状と課題を研究し、その解決に立ち向かっている静岡文化芸術大学 文化政策学部 文化政策学科の舩戸修一(ふなとしゅういち)准教授を訪ねました。

 

 

「大学では歴史学を専攻していました。歴史は面白いんですが、文献や資料を解釈するスタイルにロマンを感じられなくて(笑)研究者の道を模索しているときに出合ったのが、『パラドックスの社会学』(新曜社、森下伸也・宮本孝二・君塚大学 著)という本でした。読み始めたら、その世界にぐいぐい引き込まれ、自分は社会学の道に歩もうと心に決めました」

「最初の研究テーマは、『農本主義』という、1920年代から昭和戦前期にかけて流行した思想でした。この思想は、“工業化した近代社会にこそ、農業を軸とした社会が重要だ”というものです。戦後の長い間、否定的に捉えられていましたが、もしかしたら、今の私たちが抱える社会のひずみを解決する処方箋があるのではないか、農村にこそ新しい価値があるのではと思い、自分自身の研究テーマとして選びました」

人と深く関わることで、初めて分かることがある

「大学や大学院では、先人が研究したものを参考にし、独自の見解や新たな学説を発見することが求められます。しかし、発見した事実や課題に対して何か方策や解決策を提示することはほとんどありません。過疎化を例にすると、『調査した結果、原因は人口減少と高齢化です、以上』となります。でも、住民はそんなこと既に知っているんです。地域住民が知りたいのは、だから何をしたらいいかという具体的な方策なんです」

「研究を続けている間にも、農村はどんどん衰退していきます。『自分たちを研究のダシにしているのに、先生は地域に対して何もしてくれない』そう言われたときは本当にショックでした」と当時を振り返ります。

 

学生とともに実施した龍山調査の様子

 

それから研究のために日本全国のさまざまな人を訪ねたという舩戸先生。成田空港建設の反対運動を続けながら有機農業を実践する、現代の農本思想の実践者とも言える小泉英政さんもそのひとりでした。

「ただ話を聞くだけでは新聞記者と変わらないので、朝から夕方まで一緒に畑仕事をして、それが終わってから、2時間ほど聞き取り調査をさせてもらう。一緒に汗を流し関係性を深めていくことで、それまでおざなりだった返事も、『実は○○なんだよ』と、内容が変わってくるんです。聞き取り調査の面白さに、はまった瞬間でした。大学の授業でも言うんですが、学生は勘違いしていて、聞き取りに行けば真実を話してくれる、と思っています。しかし、それは違うと思ってます。聞き取り対象者との関係性をどう構築していくかというのがとても重要になってきます」

「福岡県にある桂川町(けいせんまち)で合鴨農法を確立された古野隆雄さんのところへは、かつて2ヶ月に1度は訪問していていました。あるとき『なぜ百姓は直まきでなく、わざわざ苗床を作って田植えをすると思う?』と聞かれたんですね。でも、全く答えが分からない。偉そうに農家についての論文を書いているのに、農家のことを全く分かっていないと気付き、とても恥ずかしい思いをしました。」

「そもそも、かつての農本主義や農本思想のほとんどは、都市のインテリが考えたものであり、農家が考え出したものではないんですね。農業や農村には、そこに住む当事者である農家しか語れないものや理解できないことがあるんです。でも、研究者である自分が農家になる訳にはいかないので、いかに現場のリアリティをつかみ取ることが重要だと考えました。机上の研究だけでなく、足繁く何度も現場に通い、直接話をして、その場の空気を五感で感じ、相手との関係性を密にしていくスタイルを選びました。そして地域のためになる社会学を実践していこうと決意しました。それは大学院の教員や先輩は教えてくれなかったことで、フィールドに基づく調査を10年以上続けてやっと気付いたことでした」


舩戸修一

静岡文化芸術大学 文化政策学部 文化政策学科 准教授。「中山間地域(農山村)の現状と課題についての社会学的な分析」をテーマに研究を続けている。学生とともに積極的に現場を訪れ、浜松の中山間地域が抱える課題解決のために奔走している。

 

 

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