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2020.10.02

街の活性化に都市型醸造所という選択[後編]Octagon Brewing(オクタゴン・ブリューイング)/ 千葉恭広さん 

~自分の技術を何に使いますか?~

 

浜松の街でゼロからビール醸造所を立ち上げ、大手のビールメーカーとは一線を画した、オリジナルのクラフトビール造りに挑戦するOctagon Brewing。後半では、ビール醸造家である千葉さんのビール造りへのこだわりと、今後への思いについてお話を伺います。

 

▲熟成の進み具合の確認は、色合いや香りの微妙な変化で見極める。

 

 

―― 日本でも様々な種類が造られているクラフトビールですが、一つひとつに造り手の思いが反映しているんですね。

(千葉) 麦汁を造り、酵母を発酵させ、熟成させるという基本工程は同じ。でも、こだわる部分は人それぞれ。まさに醸造家ごとにクラフトビールがあります。その意味では、僕は時間をかけてゆっくりと丁寧に仕上げるタイプですね。それと怖がりでもあるかな…?

 

―― 怖がりとは、どういうことでしょうか。

(千葉) 僕の理想のビールは、出したい味、造りたい味に対して邪魔する要素のない「クリーンなビール」です。本当にちょっとしたことで邪魔な匂いや香りが入ってきてしまいますので、本来の味わいである麦芽の甘い香りや、ホップのすっきりとした苦味が感じられるビール、それが僕の理想です。そのためには酵母の扱いを十分過ぎるほど慎重に行うということでもあります。サワーエールと呼ばれる乳酸菌などを使用して造られる酸味の非常に強いクラフトビールがあるんですが、適切な管理をすれば同じ醸造所で造っていても何も問題はありません。ただ、もし何かの理由で他のタンクに入ってしまうと取り返しのつかないことになってしまいます。危険性が0でない以上、リスクを冒して造るのは怖いので、Octagon Brewingではサワーエールは一切造らないようにしています。

 

―― 今後、挑戦してみたいビールはありますか?

(千葉) 今の話と矛盾して聞こえるかもしれませんが、日本酒の「麹」に興味がありますね。麹も微生物ですし、ビール酵母以外の微生物を醸造所の中で繁殖させるのは、恐怖以外のなにものでもありませんので、今まで手を出さなかったのですが。でも、いつかは麹を使ったビールを造ってみたいという思いはあります。日本酒っぽいビールになるんでしょうか。まったく未知の冒険ですね。

 

▲醸造室と店を仕切るガラスには、Octagon Brewingで造られたクラフトビールの名前が綴られている。

 

 

 

―― 醸造所設立の理念でもある地域おこしやまちづくりについて、これまで何か実感していることはありますか?

(千葉)去年、一昨年と「浜松クラフトビールフェス(※)」を開催しました。昨年は僕たちの想定を超える1万6000人ものお客様にご来場いただきました。お客様の中には他の有名なクラフトビールよりも先に僕のクラフトビールを希望される方もいて、ダイレクトな手応えを実感できました。新型コロナウイルスの流行さえなければ、今日もお店でできたてのクラフトビールを楽しんでもらえたのにと、残念で仕方がないですね。

 

▲ビールを中心に、人とモノとカルチャーが集う空間をイメージして造られた店内。

 

 

―― お客様からの感想や反応はどうでしたか?

(千葉) 一般のお客様にとって、ビールといえば大手メーカーのビールを連想するのが普通だと思います。その先入観で僕のビールを口にすると、少なからず衝撃を受けられるようですね。それを幾度も目の当たりにできたことは、ビール醸造家冥利に尽きますね。

 

―― 浜松でのビール造りはいかがですか?

(千葉) 浜松は大阪や東京など、これまで僕が暮らした街と比べても、気候的にも過ごしやすいし、海もあって山もある、素晴らしい環境です。その中で好きなことを仕事にできて、生活させてもらっていることには感謝しかありません。これからもみなさんに喜んでいただけるビールをたくさん造って、それこそクラフトビールの宣教師のように、浜松にクラフトビールを根付かせていきたいですね。

 

 

新しく何かを成し遂げるには、革命的なマインドが必要である反面、それだけではダメともいいます。ムーブメントを一過性のものではなく、日常に根付かせるには何よりも卓越した技術が不可欠なのだと。千葉さんの確かな技術を礎に、クラフトビールという新しい歴史が浜松に刻まれていくことでしょう。

 

 

 

Octagon Brewing(オクタゴン・ブリューイング)醸造責任者 千葉恭広

大阪府門真市出身。日本の大学を卒業後、理論的にビール造りを学ぶため、ドイツのミュンヘン工科大学醸造工学部へ入学。フライベルガー醸造所およびヴァイエンシュテファン研究醸造所での実地研修を経て、2011年にディプロム・ブラウマイスターの資格を取得。帰国後は東京で若手醸造家の技術指導アドバイザーを務める。2017年11月からオクタゴン・ブリューイングの醸造責任者を務めている。

http://octagonbrewing.com/

 

※浜松クラフトビールフェス

2018年からソラモで行われている、全国各地のから100種類以上に及ぶクラフトビールを楽しめるイベント。

2020年は「浜松クラフトビールフェスONLINE」として、10/11にオンライン生放送配信が予定されている。

https://craftbeerfes-online.hama-machi.net/

 

(写真提供:丸八不動産株式会社)

 

 

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